少女が、自分を箱につめている。
 自分の部分をひとつひとつ箱につめて、丁寧にふたを閉じてゆく。
 ぱたん。
 これは右耳。
 ぱたん。
 これは肋骨。
 自分を細かく、細かく分けてゆく。自分のすべてを箱につめてしまわないように気をつけながら。
 ぱたん。
 これは右目の水晶体。
 ぱたん。
 これは左手の小指のつめのうすかわ。
 少女の周りは箱でいっぱいになる。箱が、少女をうずめてゆく。自分に囲まれているから、少女はとても幸せ。
 ぱたん。
 これは頚の血管の細いひと束。 
 ぱたん。
 これは右のかかとの筋の一本。
 箱につめていない部分が少なくなるにつれて、分け方をどんどん細かくしてゆく。気をつけなければ。気をつけなければ。決して、すべてを箱につめてはいけない。
 箱でいっぱいになった少女の部屋に、ふたを閉じる音がいつまでも響く。
 ぱたん。
 これは細胞の中心で回る螺旋のひと組。
 ぱたん。
 これは螺旋をつくるビーズのひとつ。

 ぱたん。
 ぱたん。




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