彼女はよく、こめかみに銃を当てて撃つジェスチュアをした。親指と人差し指でピストルの形を作り、それを自分のこめかみに当てる。小さな声で「ぱあん」とつぶやくと、親指の撃鉄が下がって反動で銃がはね上がる。なぜそんなジェスチュアをするのかと聞くと、彼女は笑って答えた。
「殺したのよ、自分を」
彼女が銃を撃つたびに、彼女は殺される。そして違う彼女がそれにとって代わる。彼女の後ろには彼女の死体が積まれているが、彼女は気にも留めない。放っておけばそれらは風化して消えてしまうからだ。だから彼女は何の気がねもなしに自分を殺し続ける。憂鬱なとき。体調の悪いとき。気にいらない自分は「ぱあん」の一言でいとも簡単に葬り去られる。
自分を殺したときの彼女の顔には、ある種のエクスタシーが見て取れた。それが殺す快感なのか、殺される快感なのかはわからない。あるいはその両方であるのかもしれないし、どちらでもないもっと高尚なものかもしれない。いずれにせよ、それは彼女が他の時にはちらりとも見せない表情であった。
そんな彼女が本当に自殺してしまったのは、三日前のことだった。銃でこめかみを貫いて、彼女は自宅に倒れていたそうだ。殺された彼女に取ってかわるべき彼女は、もういなくなってしまったようだ。そして僕はといえば、その時の彼女の顔がどんなだったかをずっと考えている。