部屋はもうほとんど片づいてしまった。
明日、彼女はこの家を出る。これからはひとりで生きていかねばならない。幼い時からずっと過ごしたこの部屋の想い出を全て残して、必要なものだけを箱に詰めていく。想い出の大きさにくらべて、荷物はひどく小さくまとまってしまった。
押し入れの奥にはまだ手をつけていない。彼女は身を縮めてそこへもぐりこんだ。心地よい圧迫感。そう言えば昔、私は押し入れの中にもぐりこむのが好きだった。別に精神を病んでいたわけではなく、子供と言うのはたいていそうなのだ。閉鎖された、薄暗くて狭い空間が子供たちにとってはたまらない魅力なのだ。それが秘密を行うことの快感なのか、それとも空間を支配しているという充実感なのか、あるいはもっと単純なものなのかはよくわからない。でも、とにかく子供たちは押し入れや屋根裏に入りたがるものなのだ。
押し入れの中で、彼女は昔こうしていた自分を想い出していた。昔彼女は押し入れの中に人形や宝物の箱を持ち込んでよく遊んでいた。記憶をたぐって右手を延ばすと、思ったとおりそこには小さな箱があった。中にはビー玉やプラスチックのネックレスや貝がら、そんなものがつまっている。今、彼女は自分が明日この全てを捨てて行ってしまうということを忘れていた。ただこうして、うずくまっていたかった。ここでなら今までの想い出だけに囲まれて暮らせる。ここは私の世界だ。いつまでも、いつまでも――
急に腰の痛みが襲ってきた。首筋も痛い。不自然な格好を長いこと続けていたからだ。彼女はもはやここが自分の領域ではないことを身をもって悟り、押し入れからずるずると這いだした。はやく残りの仕事を片づけよう。彼女は立ち上がって、大きな延びを一度した。