さかなの眼

 彼女の顔はガラスでできてて、中には水が入れてある。ぼくが話すと彼女は笑い、彼女の中で水が波打つ。
 その表情があんまり透明なので、ときどきぼくは不安になる。彼女はほんとうにぼくを見ているのだろうか。微笑む彼女のその眼に、ほんとうにぼくは映っているのだろうか。
 ぼくは彼女の顔に近寄って、その眼を見つめた。その瞬間、彼女の眼はぶるりとふるえて逃げていった。
 眼だと思っていたのは、実は二匹のちいさなさかなだったのだ。




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