シーラブとは?

子どものころ釣り道具一式セットを自称お金持ちの友人にもらった。
その道具の1つに「シーラブ」という集魚袋が入っていた。
説明によると、「保護色」と名乗る赤い色のその袋につり餌をつめ、投げ込むことで、餌飛びを防止する。
さらに袋は水中で溶解し、袋に含まれる集魚臭成分が流出、餌と相乗効果を発揮し、「ポイントを作り出す」のがうたい文句である。
その説明に「つヽんで」仮名遣いや、いかにもというイラストがかかれており、子ども心にほんわかした暖かみを感じていたものである。

家族と釣りを兼ねて海へ旅行をした。姉は家出中だったため旅行に参加せず、釣りをするのは私だけだった。思えば寒い展開だった。
わくわくしながら使おうとすると、「シーラブ」は風にふかれて水面に落下。救出はしたものの、溶解性を発揮し、袋すべてがくっついてしまう。
その後、なんとか使用できる「シーラブ」を選りだして、餌であるムシ(イソメ)とさなぎ粉(蚕の繭から絹をとったあとのムシの部分をすり潰したもの。「ああ野麦峠」を参照してください。)とをつつむ。しばらくして先ずハゼを一匹ゲット。
その日はとても暑かった。炎天下の桟橋で私はあたりを待ったがなかなかつれない。
結局、釣果は一匹のハゼのみであった。

その後、「シーラブ」のパッケージにはほんわかした説明に加え、アンケートに答えると抽選で釣り具約50種類が当たるとの記述があることを発見。
これはかなりマイナーだろうから送れば必勝と思い、アンケートに答える。
さらに目立つように先日の釣りでの活躍を書こうと思ったが、実はたいした釣果ではなかったのである。
これではアピール不足であると感じ、フィクションを加えることにする。
フィクションの文章は「ハゼ30匹」であったがこれは別の日に近くの河口でミミズでやったときのものである。
しかし、うまく書けたのでアンケートに添えて封書で送ろうとする。
封書には切手がいる。手元には切手がなかった。
「今度買ってこよう、今度買ってこよう」と思い月日が過ぎる。
1年が過ぎ、「シーラブ」にあてた封書を発見する。
「もうプレゼント期間は過ぎただろうか」という思いと、せっかく書いた封書への思いが交錯する。
封書を読み返すと内容や表現に少し不満があった。
「それを修正しようか、どうしようか」と思い月日が過ぎた。

何年か後に、父親の命令で部屋のかたずけをさせられる。フェティッシュともいえる収拾されたもの達に分かれを告げ、ゴミ袋へいれる。そのなかにあの封書があった。
なつかしさと、あの苦い釣り旅行の思い出と、封書を出せなかった自分の思い切りのなさへの自虐感とが、むせかえる。さようなら私の封書。「シーラブ」の会社は今どうしているのだろうか。
これが私のそこはかとない思いである。

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