自作解説 あるいは余計ないいわけ
作品の外で作品を語るのはみっともないことだと思う。でも、それって書く側にとってはけっこう甘美なので始末が悪い。というわけで、隠しページです。
- 空を塗るひと
後になって細部をいじってますが、この話の骨格は中学生のときに書いたものです。現存する最古の『A
CUP OF STORY』ということになるでしょうか。このころは酒を飲まなくても文章が作れたんだよなあ。
- 非結晶の記憶
小学三年くらいのころに「ガラスは液体である」というハナシをはじめて聞いたときのオドロキは、とても新鮮なものでした(厳密には固体でも液体でもない「非晶質」というものらしいけど)。「世の中は“見たまま”じゃない」ということを意識しだしたのはそれからです。
- びんづめの妖精譚
オムニバスというやつがむしょうに書いてみたくてでっち上げた物語です。あと内臓の出てくる話も。ただ、ファーブル昆虫記のファンには不評でした。
- Cu
ワタシの理科の成績は生物以外はサンザンだったんですが、理科室や理科準備室は大好きでした。なお冒頭に出てくる青い液体は、正確には「塩化銅水溶液」ですね。
- It's just a lie
精神的に行き詰まったとき、よくこう唱えます。「世の中はぜんぶうそ。本当のことは別にある」。でも、それもうそだってことはよくわかってるんだ。
- 子供の領域
「閉所大好き症」というのがあるとすれば、ワタシはたぶんそれです。いまでもカプセルホテルなんかに泊まるとわくわくします。ちいさいころに押し入れの「秘密基地」で過ごしたなごりでしょうか。
- 世界の終わりに
「おまえは世界が破滅するハナシばかり書きすぎる」とよく言われます。たしかに安直にこのテーマばかり選びすぎる癖がワタシにはあるようです。でも「核戦争後の世界でどうたらこうたら」ってハナシはワタシもそろそろヤだ。
- pointin'atyourhead
このタイトルは、PET SHOP BOYSの"West End Girl"という曲(のラップ部分)からのパクリです。「ぽてぃなちょぁへっ」と発音してください。
- AZURE
azureというのは「ラピスラズリ(LAPIS LAZULI)」と同根のことばで、これをタイトルに使ったのは「鉱物質の青」をイメージしたかったからです。このあたりから「飲まなきゃ書けない」状態になってきましたね。まだ高校生だったけど。
- 静かに
まあ、要するに「パソコン通信礼賛」ですね。夜眠れなくて、チャットとかに救いを求めていたころです。これを書いたのは。
- CONVENIENT PARADISE
大型台風が上陸したときに書いたものです。いちばんキツかったのが午前5時ごろで、ワタシはなにを思ったかその最中にふらふらと外に出てみたんですが、コンビニがあたりまえのように営業していたのを見て感動したおぼえがあります。で、入ってみたら、いるんだ立ち読みしてるヤツが。いったいなにしてるんでしょうねえ。ワタシもだけど。
- ペイパーカップに落ちる雨
元ネタは言うまでもなくTHE BEATLESの"ACROSS THE UNIVERSE"です。JAI
GURU DEVA OM。
- INVISIBLE VISION もしくは空よりも遠い海
昔流行った「ニューエイジ・サイエンス」の本を読んで思いついたハナシ。いわゆる「ホロ・ムーブメント」とか「明在系と暗在系」とかいうヤツですね。ニューエイジ・サイエンス自体はうさんくさいとしか感じなかったけど。
- ト・アペイロンを記録するホログラフィのための干渉縞
「ト・アペイロン」というのは、ギリシアの哲学者アナクシマンドロスがとなえた「万物のもと」です。くわしくは哲学辞典とか読んでね。ちなみに「Z」のパートは、大学受験の模試の答案の裏に書きなぐった文章がもとになっています。たはは。
- 夜の船
本来は、これと『CONVENIENT PARADISE』と、それにもうひとつくらいを加えて「コンビニを舞台にしたオムニバス」を作る予定でした(『CONVENIENT……』はもともとそのオムニバスのタイトル)。でも三本作るのが面倒になってバラ売りした次第。どうでもいいけど、ワタシ夢精ってしたことないんだよな。どうすればできるもんなんでしょうか?
- 箱
本人はリズムにまかせてボーッと書いただけなんですが、これを読んだある人によればこれは「自分のイメージを切り売りするモノ書きのハナシ」なのだそうです。うーむ、なるほど。
- 義眼売り
自分の感覚に対する強烈な不信感というか、懐疑の念というようなものがワタシにはあります。「いま見ているもの、聞いているものはほんとうはうそなんじゃないか」。こんなひねくれた考え方を持ってしまった原因のひとつが、ちいさいころに聞いた「発見不可能な色盲の話」です。「その人には青が青と見えていなくても、その見えている色を青と教え込まれて育ったのなら“間違っている”ことにだれも気づきようがない」というアレです。いまでもそのことを考えると眠れなくなります。
- Jamais-vu [ジャメヴュ]
一時ネコもシャクシも使っていた「デジャヴュ」の、ちょうど反対の概念が「ジャメヴュ」です。ただ、ハナシの中の「同じ字をじっと見つめていると知らない記号に見えてくる」というのは、「ジャメヴュ」ではなく「ゲシュタルト崩壊」と呼ぶべきであるとの指摘をある人からいただきました。まあいいや、書いちゃったもんはしかたない。
- サハラ砂漠であなたとお茶を
タイトルはTHE POLICEの"TEA IN THE SAHARA"より。ちなみにこの曲は映画化もされたポール・ボウルズの『シェルタリング・スカイ』にインスパイアされたものだそうです。読んでも観てもいないけど。
- ボンナイフ
これはですね、ワタシとしては一応「官能小説」をめざして書いたつもりなんですが。どこでどう間違ったんだか。
- 落下見物
登場人物の問答の内容がわりと凡庸なので、物語としては成功しているとは言えません。でもこのユカコさんというキャラだけは気に入っていて、彼女を主人公にした連続モノを書こうとしたこともあります。現在計画は頓挫中ですが、そのうち発表できたらと思います。
- 猫と子供たちの国
いかにも酔いにまかせて書いた、グチみたいなハナシですねえ。でも「猫のミミ」って名前はけっこう自分で気に入ってるんですが。
- 頭に子猫の死体をつめて
なんとなくタイトルがうかんできて、その後でハナシをでっちあげたという、ワタシの典型的な制作パターンの代表です。なお作中に出てくる「このエスカレーターはあなたの行き先には止まりません」とか「武装の権利」とかいうのは、映画『未来世紀ブラジル』の映画会社側のタイトル案リストから取ったものです(参考:『バトル・オブ・ブラジル』ダゲレオ出版)
- そのいとおしいいきもの
白状します。これ、吉田戦車のパクリです。そのいとおしいいきものとは、つまり「いじめてくん」なのです。すみません。言わなきゃよかったか。
- ビー玉眼玉
コンタクトをした片目に汗が入って見えなくなったことが前にあって、そのとき思いついたのがこの物語。あのときは痛かったなあ。
- Alcoholonic [アルカホロニック]
酒飲みの言い訳。タイトルはAlcoholic(アル中)とHolonic(完全な)の合成語です。作中に挿入されている「わたしはソーマを飲んでいるのだろうか?」というのは、リグ・ヴェーダの詩の一節。
- 胎児のような月が出て
最初は「月はいつか満ちてくるんだよ」という、わりと前向きな文章だったんですが、それを読んだある人が「なんか無理矢理明るくしてるみたい」と言ったので最後の一行が追加されました。やっぱりズズ暗い方が似合いなんか。
- さかなの眼
これは、短いワタシの文章の中でもとくに短いのを集めた『DEMITASSE CUPS
OF STORY』というもののなかのひとつでした。他の物語については、気が向いたらということで。
- いちごゼリー
グミキャンディ全盛のころ「果汁グミ」とか「果肉グミ」とかがあったのを見て、友人と「じゃ次は『肉汁グミ』だな!」とバカ話をしてたのがこの物語の発端です。これもほんとはみかんゼリーとかコーヒーゼリーとかいろんな話のオムニバスにしようとしていたのですが、あえなく挫折しました。
- 化石を掘りに
当初パソコン通信などで発表したときのタイトルは『アンモナイトを掘りにいく』だったんですが、干刈あがたの著作に『アンモナイトを探しにいこう』とかいうのがあると知って改題しました。おおかた書店でこの本のタイトルがちらりと目に入り、それが意識下にインプットされてたんでしょう。
- 石の眼
ドラえもんだったかなあ、なんか自分の眼球を取り外していろんなところをのぞくってハナシがあって、それが強烈に印象に残っています。この物語の出所はたぶんそのあたりだと思います。
- 鏡の部屋
こういうアトラクションに入ったことは実はワタシにはないんですが、なんとなくロケーションに選びました。ブラッドベリの短編に鏡の部屋へ通うこびとのハナシがあって、それがけっこう影響してます。
- ケミカルガーデン
かつて「化学部員」だったという方から、本当のケミカルガーデンの作り方を教えていただきました。珪酸ナトリウム水溶液に硫酸銅などの結晶を落として、それが成長するのを待つのだそうです。水に粉薬をまぜて色水を作るという本作の描写は、だから大嘘ということになります。理系にうといくせに理系なネタを使いたがるから、こういうボロが出るんだなあ。
- 潮干狩り
映画の『アビス(完全版)』を観て、自分もむしょうに「静止した津波」のある情景を書きたくなったのがこのハナシのきっかけです。時間の流れ方の描写に矛盾があることは承知ですが、絵づらを優先しているのであしからず。
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